茨城県立並木中等教育学校の生徒会選挙で行われたネット投票レポート〜インターネット投票の実現にむけて〜|#LayerX_history
こんにちは。LayerX Labsの畑島(@th_sat)です。
今日は、7月7日に茨城県つくば市の県立並木中等教育学校で行われた、生徒会選挙のインターネット投票の模様についてお届けします。
LayerX Labsにおけるインターネット投票への取組
LayerXの研究開発組織LayerX Labs(レイヤーエックスラボ)では、行政のデジタル化推進施策の一つとして、「透明性と秘匿性を両立した電子投票の実現」に向けて取り組んでおり、昨年11月につくばスマートシティ協議会に参加している他、昨年12月には石川県加賀市およびxIDとの間で、市の政策に関する電子投票実現に向けた連携協定を締結しています。
https://layerx.co.jp/news/pr210609/
https://layerx.co.jp/news/pr20201203a
また、今回のインターネット投票に先立ち、6月24日には課外授業の講師を担当しました。
当日の授業の模様は、つくば市のYouTubeサイトでご覧いただけます。
生徒会選挙におけるインターネット投票の位置付け
つくば市では、先端技術を社会課題解決に活かすべく取組を進めており、その一環として、3年後に市長選挙や市議会議員選挙でのインターネット投票の実現を目指し(出所:NHK)、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」にも先端的サービスの実装の一つとして盛り込んでいます。(出所:つくばスーパーサイエンスシティ構想)
今回の生徒会選挙は、従来の紙による投票と、インターネット投票を併用した形で行われ、インターネット投票には並木中等教育学校の4年次生(約160名)が参加しました。インターネット投票システムは、xID社のデジタルID、VOTE FOR社の投票システムを用いて行われたもので、投票は生徒自身のスマホ、あるいはKDDI社から貸与されたスマホを使います。
投票に先立つ候補者演説
選挙の開始にあたり、総合実践室に集まった生徒たちに対して、並木中等教育学校の井坂校長より、「今日の選挙は生徒会リーダーを選ぶ重要な選挙です。並木中等教育学校の代表としてふさわしい人を選んでほしいと思います。今日は4年次がインターネットを使って投票する、日本初の取組みです。自分たちの意識を高めて投票する人を決めてください」との挨拶がありました。
続いて選挙管理委員長挨拶です。「今日の選挙では4年次生はインターネットで投票します。信頼できる人を選んでマルをかく。それさえでやれば、ここに座っている候補者はそれぞれ覚悟を持っていると思うので、頑張ってほしい」と、インターネット投票にも触れながら檄を飛ばしました。
そして投票に先立ち、候補者演説・応援演説が始まります。会長・副会長・会計・役員などの候補者・応援責任者がそれぞれ熱い主張を繰り広げました。ある候補者からは、「なぜインターネットで投票が行われるのか。高齢者にニーズがあるからだ。そうしたニーズは、行政が高齢者の声を聞きに出向いて初めて分かる。だから並木中等も、能動的に動く生徒会を作らなければならない」と、インターネット投票に触れる意見も挙がりました。
(並木中等教育学校の校舎風景)
インターネット投票の実施
候補者演説・応援演説が終わると、VOTE FOR市ノ澤さんから、インターネット投票の流れ(認証・投票選択・投票完了)について説明があり、いよいよ投票開始です。
インターネット投票の特徴の1つでもある「どこにいても投票できる」を活かして、生徒たちは総合実践室から教室や多目的室といった場所に移って、スマホから投票案内ページにアクセスした上で、各自が事前に登録した情報に基づいて認証を行います。その上で、定数と候補者数が同数の役職については信任するかしないかを選ぶ「信任投票」、定数より候補者数が多い役職についてはふさわしいと思う候補者を選択する「選択投票」を行っていきます。
(注:投票の様子は、並木中等教育学校の許可のもとに撮影しています)
生徒の皆さんは操作に詰まることなく、私が見て回ると既に投票が終わっている様子で、スマホを使ったサービス利用に日頃から慣れている印象を受けました。全体としてはほとんどの生徒がインターネットから投票完了できたとのことで、初めての取組であったことを踏まえると、かなりスムーズに投票を済ますことができたと思います。
投票を終えた生徒たちに、マスコミ各社が「インターネット投票はどうでした?」と質問されていましたが、生徒たちからは「とにかく楽。寝ながらでもできる」といった好印象の声が多く聞かれました。この他には、「ネット環境が悪いと詰まるかもしれない」「機種の違いをどうクリアするか」「WiFiに繋がってない人が時間かかるといった個人差がある」といった、実体験に基づく課題提起の意見も挙がっていました。
インターネット投票の開票・集計
投票が終わると、選挙管理委員による開票・集計が始まります。投票用紙による投票と、インターネット投票の結果が集計されたものによって、結果が決まります。
まず先に、紙投票の集計方法について説明が行われます。「無効票の扱い」や「信任投票において、バツがついてるものをカウントするのか/マルがついてるものをカウントするか」といった確認が行われた上で、各クラスごとに選挙委員が開票していきます。
紙投票の集計が行われている中で、いよいよインターネット投票の開票について説明が始まります。選挙管理委員が事前に設定したID/パスワードを入力すると管理システム開くと、インターネット投票の集計結果が表示されました。
(注:こちらは選挙管理委員による集計管理画面へのログインの様子。集計結果については、候補者の氏名・得票数などが含まれるため、掲載を控えています)
紙投票の集計は、まだ続けられており、全体の集計発表は明後日7月9日であることから、ここで集計作業見学は解散となりました。
インターネット投票の可能性
今回、生徒会選挙というシーンを題材として、インターネットを用いた投票・集計を見学しました。改めて、インターネット投票のメリットとして、「投票オペレーションがいつでもどこからでも一発で出来てしまうユーザー目線での簡便さ」に加えて、「集計オペレーションが人手や時間をかけることなく一瞬で済んでしまうという計数面の簡便さ」を改めて実感できました(後者の開票作業については、先週行われた都議選の開票参観を行った記事を参照ください)。
つくば市政策イノベーション部の森部長は、「生徒が3年後選挙権を得る世代になったとき、まさにインターネット投票ネイティブになっていることを期待する」と述べられていました。(出所:7/7付け報道ステーション)
今回、並木中等教育学校の生徒の皆さんは、スマホやインターネットを使って、全校生徒の意見を集約することができることを新たに学習しました。この先、こうした集めたファクトをもとに、学校運営の改善提案を学校に対して行っていくといった展開も見られるかもしれないと思うと、ワクワクしてきます。
一方で、数万人〜数十万人規模の有権者を抱える自治体レベルでインターネット投票を行っていく上では、教育・広報・サポートにおいて、今回の160名規模の生徒会選挙とは段違いのハードルが待ち受けていることが考えられることから、それらに一つずつ工夫・対策を講じて行かねばなりません。
また、投票内容の秘密を確保する上では、「投票内容を秘匿化したまま集計結果だけを得られるようにしたい」といった課題も出てきます。LayerXでは、投票内容を秘匿化したまま集計結果を得る上では、「コンフィデンシャル(機密)・コンピューティング」という技術を組み合わせて使うことが有効と考えており、次世代のセキュリティ・プライバシー保護技術「Anonify」の開発を行っています(Anonifyの公式ウェブサイトはこちら)。
終わりに
今回の並木中等教育学校の生徒会選挙におけるインターネット投票を通じて、インターネット投票の実現にむけて新たな時代の扉が一つ開いた瞬間に立ち会うことができ、大変光栄です。本取組の準備にあたられた皆様の尽力に改めて敬意を表したいと思います。LayerXでは、インターネット投票の実現に向けて、今後も鋭意取り組んでいきます。