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LayerX Trustブログ #2 信頼の見取り図の集合ー「信頼を考える」を読んで

Intro

CTO室所属の@ken5scal(鈴木研吾)です。Zero Trust Networkを監訳し終わった後に、頭を悩ませた「Trust」とは何か?そんな悩みから始めた「信頼」をテーマにしたTrustブログ第2弾です。折しも、先日LayerX Newsletter Top News (Biz) でも紹介した、「内閣官房デジタル市場競争本部 Trusted Web推進協議会」の第一回目が2020/10/15に開催されました。あらゆる分野で「Trust」の登場頻度はますます高まっています。

果たして「Trust」はnext buzzwordなのでしょうか。そうかもしれません。buzzwordかどうかは数年後あるいは十数年後の蓋を開けるまでわからないものですので、自分なりに調査・評価し、行動の取捨選択すればいいのです。buzzwordと判定しようがそれはそれでよし、興味を持って深ぼるのも良し。私はZero Trustを監訳した時点で、Trustに興味をもったので、数冊の本を読んでみました。どれも咀嚼し難いものばかりですが、お陰でちょっとだけ入門できて、ちょっとだけTrusted Webを始めとした議事録やレポートに対して理解度が進んだ気がします。

今回は読んでみた本の1つを、本ブログで紹介します。

信頼を考える: リヴァイアサンから人工知能まで

Trust(信頼)という単語が様々な場面で登場していることは皆さん、すでにご存知のことでしょう。5G時代の新しい社会的な系であるCyber-Physicalシステムにおける構成要素とされるトラストサービスが一例でしょう。

一方、近年1つのJob Descriptionとして確立したSite Reliability Engineeringや「ISO/IEC 25010」でシステム/ソフトウェア製品品質に関する品質特性の1つである信頼性(Reliability)もTrustの範疇として考えられるかもしれません。

奇妙な時代の一致を感じますが、これらの分野におけるTrustの定義はそれぞれ異なります。一方、Trusted Web推進議会では、次の様に定義されており普遍的にも思えます。

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各事例にそれぞれのTrustがあり、どの程度、細分化したものか、あるいは抽象的なことかは正直わかりません。自分も含む初心者が深堀りたい領域に出会う場合、ある程度カタログちっくなもので全体像をみたいものです。
そんなニーズに応えて、このような各分野における信頼の研究を見取り図として集合させた本が「信頼を考える: リヴァイアサンから人工知能まで: 小山 虎(編著)」です。

本章は「信頼研究の始まり」、「秩序問題から行動科学へ」、「信頼研究の多様化」、「信頼研究の明日」の4部で構成されています。3部と4部は教育、医療、システム(機械・ロボット)、福祉、差別、人工知能など時代の歩みとともに専門化・多様化した各分野における信頼研究が楽しめます。

例えば、第7章の「ビジネスにおけるステークホルダー間の信頼関係」は、FINSUMのマルチステークホルダー間の信頼関係構築のためのヒントになります。また、第10章の「機械・ロボットに対する信頼」も興味深いです。機械を事故だけでなく、使われないことによる人的・時間的コストの増大も勘案したリスクを低減し、機械のReliability(課題遂行性)を担保するための信頼をテーマにした10章は、Site Reliability Engineerな方も楽しめるかもしれません。

もう1つ、この章で面白いのは、信頼することがイコール 100%安全でないという前提がおかれていることです。当たり前のようですが、信頼は「信頼者と被信頼者との可変的な関係」であり、信頼者は信頼の結果、引き起こされるであろうリスクと脆弱性を抱えることになりえ、そのため信頼は各種要素に応じて強弱をつける必要のあることが書かれています。まるで、ゼロトラストの動的ポリシーのようですね。

第4章の「行動科学とその余波」と第6章の「社会心理学における信頼」は、まさしくTrusted Web推進議会で定義されたTrustに直結する内容になっています。例えば、4章については、同推進議会の参考資料でとりあげられた、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンの信頼論について取り上げています。ちなみに、私はルーマンの「信頼: 社会的な複雑性の縮減メカニズム」を読んでみましたが、難解さに一度投げています。いつか再挑戦して、ブログに書けるくらいには解像度をあげたいですね。

個人的には、第1章の「ホッブズにおける信頼とホッブズ問題」がヒットでした。自然状態や社会契約を成立する上で、信頼がキーであり、それが後に続く信頼の源泉となったと書かれている章です。この章では、自己保存を目的とする上で政府に自らの自然権を委譲した敬意もあり、SSIに繋がりそうなところも面白いです。是非、どこかで本章についてはブログに記したいと思いますが、思ったより長くなってしまいましたので、今回はここまでにしましょう。

むすび、次回に向けて

今回は「信頼を考える: リヴァイアサンから人工知能まで」を取り上げました。Trustは共通項はあるものの分野毎に内容が異なります。そのようなTrustの分野別の俯瞰図や成り立ちについてインプットしたい場合、本書が恐らく日本語の著書として最適になるでしょう。
この本には、本文で紹介した以外に、内閣官房デジタル市場競争本部のTrusted Webにおける「Trust」で重要な役割を果たすニコラス・ルーマンの「信頼」に関する概要が記載させていたり、信頼性・課題遂行性(Reliability)に関する記述も豊富です。
また、今後さまざまなコア機能が分散化・アンバンドリングしていく中で、重要になるマルチステークホルダー間の信頼構築のヒントも見逃せません。是非、お手にとってみてください。Kindle版が2020/11/10に出るようなので、そちらを待ってもいいかもしれません。

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