目指すのは循環する組織。日本のIT業界を見てきた小賀昌法がLayerXで成し遂げたいこと
2023年4月1日、LayerXに新しいメンバーが加わります。ヤフー株式会社でエンジニアリングマネージャー、VOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)でCTOなどを経験し、企画・監修などを務めた『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』でITエンジニア本大賞2021で大賞&特別賞を受賞した小賀昌法(こが・まさのり)です。
日本CTO協会の立ち上げ人であり、現在も理事を務めるなど、日本のIT/エンジニアリング業界を常に第一線で見てきた彼が、今なぜLayerXにジョインするのか。これまでの歩みとともに、心の内を語ってもらいました。
「自分にとっていいもの」ではなく「ユーザーにとっていいもの」を
新卒ではNECネッツエスアイ株式会社というNECの関連会社にプログラマーとして入社しました。はじめは、仕様書通りにプログラムが書けることに楽しさを見出していたんですが、次第に「自分が綺麗にかけたプログラム」が顧客にとって使いやすいものとは限らないことに気がついて。
ちょうどその頃、プログラマーからいわゆるSEに役割が変わったことも大きな要因でした。営業の担当者と一緒にお客さまのところに提案に行って、導入支援や導入後のサポートまでをすべてを担うことで、お客さまの意見をダイレクトに聞くことができて。自分にとって「いいもの」ではなく、使う人にとって「いいもの」を作りたいと意識が変わっていきました。
僕は1992年にキャリアをスタートさせている、いわば「インターネット太古の時代」を経験した人間です。そこから短い期間に次々に新しい技術が出てきました。目まぐるしい変化のなかで「新しいもの」のなかに「普遍的なもの」があることに自然と気づけたんです。
同期のなかには、本体のNECの大規模プロジェクトにアサインされるメンバーもいましたが、僕は自分たちが直接お客さまとやりとりをするような小さなプロジェクトに配属されていたので、技術の変化という大きな流れとユーザーの価値の最大化に同時に向き合うことができた。偶然ですが、これはすごく大きな経験でしたね。
振り返ると、この頃にインターネット業界のキャリアの下地ができていたのかもしれないと感じます。僕のなかでは知的好奇心の種類が2つあって、ひとつは新しいものや面白い技術が出てきたときに「どういう仕組みで動いているんだろう」っていう純粋な好奇心。もうひとつは、技術をうまく使うことで、世の中にある解決できていない課題を解決したいというもの。
NECネッツエスアイ時代は、オフィスオートメーションといって、バックオフィス業務を自動化することを支援していたんですが、技術の力で仕事を楽にする経験は、その後のキャリアの基礎となりました。
チームの力を最大化し、事業に貢献したい。ヤフー急拡大期のマネジメント
約8年NECネッツエスアイに勤め、2001年にヤフー株式会社に転職をしました。当時のヤフーは、EIP(エンタープライズ・インフォメーション・ポータル)と呼ばれる、企業内のポータルサイト事業の立ち上げ期でした。企業のポータルサイトに、ヤフーのコンテンツも連携して、株価や天気、ニュースも一緒に表示できるようなサービスで、これは面白いなと思ったことが転職の理由です。
前職のころから、すでに社内の情報が飽和していて、アクセスしたい情報にすぐに辿り着けない状況だったため、これからますます情報が溢れる時代がくると感じていました。ただ、ちょっと時代を先取りしすぎてあまり売れなかったのが結末です(笑)
ヤフーでははじめてマネジメントも経験をしました。私が入社した当時は全社で300人くらいの規模でしたが、5年半で約10倍の規模になる急成長期でした。マネージャーになって最初は5人くらいのメンバーを見ていたのが、最終的に20人くらい見ることになって、これは無理だとチームを細分化するのを繰り返しながらマネジメントをしていました。
プレイングマネージャーでいることもできたのかもしれませんが、一緒に働くメンバーが僕よりもはるかに優秀で。なので、彼らの力を最大化して、事業部をもっとよくしたいと自然に思えました。
「知り合った人全員が幸せになってほしい」って言うと綺麗事に聞こえるかもしれないけど、結構仕事の本質なんじゃないかなって思っています。部署とかチームをよくしたい、お客さまにも幸せになってもらいたいと思って働くほうが、結果的に評価されると思うんです。自分がマネージャーだったときにも、自分の評価のためだけに仕事をする人より、誰かを幸せにするために動けるメンバーにいい仕事を渡したくなっていましたし、これは今も大切にしている価値観です。
能力と実績は時に時間差が生まれる。“適正な”評価をするために立ち上げた「技術力評価会」
その後、株式会社VOYAGE GROUP(現株式会社CARTA HOLDINGS)でCTOをトータルで11年ほど務めました。その間に立ち上げたのが、エンジニア職の能力を評価する「技術力評価会」という仕組みです。これは、半年に1度、自分が携わったプロジェクトからひとつ選び、「なぜその仕事をしたのか」「なぜその技術を選定したのか」などを発表し、それを人事評価の一部にする制度です。
どの会社も似ているかもしれませんが、事業責任者とうまくコミュニケーションが取れるチーム・人もいれば、うまくコミュニケーションは取れないけれど実はしっかりもの作りをしている人もいる。
例えば、新機能を素早くリリースするってわかりやすく評価に結びつきますが、その後に不具合がたくさん出たり、2回目のリリースのときに修正に時間のかかる作りになっていたら、最初のリリース時の評価って本当に信頼に足るものなのかなって疑問が生まれますよね。
一方で、わかりやすいもの作りはしていないんだけど、不具合が起こりづらいシステムを考えたり、チームのために裏方的な仕事をコツコツやってたり、そういう人もきちんと評価されるべきだと思ったことが、この制度の発端のひとつです。
特にウェブサービスの領域だと、実績と能力が必ずしもイコールにならないことがあります。ここで言う「実績」とは事業責任者など評価をする側から見えやすい実績のことです。
長期スパンで手入れや修正が必要なものだと、ずっと同じメンバーで対応できるとは限りません。誰がやっても修正が簡単なように今から仕組みを作っておける人は、現在の「実績」としては評価されづらいですが、2年後には評価されるかもしれない。能力と実績には時に時間差が生まれるんです。
もちろん、セールスなど能力と実績が結びつく場合もあるので、すべての職種に当てはまるわけではありませんが、僕がエンジニアを評価をするときには大切にしている観点です。
僕自身、自分の経験から価値観が積み上がっていったと思っています。なので、経験をちゃんと振り返り、個人のスキルにしましょう。そしてその個人の振り返りをチームの振り返りに繋げて、チームのナレッジにしていってほしいと言っています。いろんなチームのナレッジが積み重なって、会社の文化は作られると思うので。
日本CTO協会を立ち上げたのも同じような背景があります。僕がCTOに就任したころは周りに相談できる人がいなかったので、社外のCTOたちと情報交換をする場を定期的に開催するようになりました。次第に規模も400名近くになったので、その場の知見をもっとIT業界や日本社会のために使っていきたいと、協会を立ち上げたんです。(LayerX CTO)松本さんともここで出会いました。
熱量高く、失敗ができる組織は強くなれる
当時の仕事は楽しく、やりがいもありましたが、50歳を迎えたタイミングで、本当にバリバリ働けるのが後10年くらいだと実感し、ちょっと大きなチャレンジをしてみたいという思いが生まれて。それで入社したのが、トラボックス株式会社という、物流業界が抱える問題をデータとテクノロジーの力で解決することを目指すスタートアップです。30名ほどの規模で、非常にやりがいがあったのですが、事業戦略のピボットなどもあり1年ほどで退職することになりました。
次をどうしようかなと考えたときに、インターネットサービスをずっとやってきて、この業界に育ててもらったので、そこで培った力で貢献できるのは、まだDXが進んでいない領域だと思いました。それから、新しいことへの感度やアジリティがある組織かどうか。そして、一緒に働く仲間に共感できるか。この3つの観点で挑戦の場を探すことにしたんです。
そういう意味で、「金融」は扱っているものは電子データだけど、まだまだDXできる余地がある。なのでFintech領域は自分のスキルとマッチすると考えました。新しいものへの感度も、ChatGPTが出てきたとき、(LayerX CEO)福島さんや松本さんが本気で着目して、素早く動いている姿を見てすごくいいなと。
加えて、松本さんや名村さん、mosa(榎本)さんと話をしていくなかで、この4人でフォーメーションが組めたら、自分の理想を超えるようなエンジニアリング組織や文化が作れるんじゃないかと思いました。現場のメンバーも、スキルはもちろんとにかく熱量が高い。このメンバーと一緒なら、大きなことを成し遂げられると感じましたね。
LayerXは今でも十分いいチームです。ですが、僕や名村さんが見ているのは3年や5年後の地点。いい意味で、今のチームメンバーが半分しか残っていない状況になったときに、チームにエースたちのナレッジが受け継がれ、さらにいいチームに育っているかということです。本当に強い組織は、いい循環が生まれているチームだと思うので。
甲子園でも、エースが卒業しても翌年もその先もずっと強いチームがありますよね。あのイメージです。そのためにはまず、チームメンバーがオーナーシップを持っていることがすごく大事だと思います。チームやビジネスの規模が大きくなると熱量を持ちにくくなりますが、それをどう維持するかは考えていきたいです。
この先、ビジネス規模が拡大していくなかで、いかにチームを分割して連携するかも重要です。大きなものは複雑で理解も難しいので、そういう部分をうまく言語化し、新しいメンバーが理解しやすい仕組みを作ることも大切だと思っています。小さいチームが連携し合えると、一人ひとりも活躍しやすいし、戦力化のスピードも上がるので。
とはいえ、まだまだLayerXはn=1の体験を大事にしたほうがいいフェーズだとも感じています。技術で凌駕することもできるとは思いますが、ユーザーの言葉のニュアンスまでを含めて知る経験を積み重ねることで、メンバーもユーザーも互いにハッピーになる循環が生まれるのではないでしょうか。
なので、熱量高く「LayerXを利用してデカいことをやってやりたい」くらいの意気込みのある人と仕事がしたいですね。会社に学びにくる人は、ちょっとフェーズが違うかなと思います。サイバーエージェントやリクルートのように、どんどん若手がチャレンジをして、新しいものを生み出していく。「次の時代はLayerXだ」と言われるような会社にしていきたいですね。
そのためにも「失敗しやすい」環境も作っていきたいです。どんどん小さい失敗をして、そこから学んでいくことで人は成長するので。僕自身もアンラーニングして、いろんなチャンレンジをしつつ、失敗の試行錯誤も含めてケーススタディとして見本となるような組織にしていきたいです。