“ユーザーファースト”を体現するための開発者体験とは?
バクラクビジネスカードをはじめ、バクラクシリーズを活用いただいているお客様に、LayerXの経営陣が聞きたいことをインタビューする連載『バクラク顧客探訪』。
第6回は、宿泊施設、レストラン、スパの予約サービスのほか、「お取り寄せ」「ふるさと納税」などの新規事業を展開する株式会社一休のCTO伊藤直也さんと、株式会社LayerX代表取締役CTO松本勇気の対談をお届けします。
株式会社はてなのCTO、グリー株式会社のソーシャルメディア統括部長を歴任し、現在は一休のCTOに就任し第一線で現場を牽引している伊藤さんと、LayerXのCTOで、「LayerX LLM Labs」の初代所長も務める松本。経営に関わりながらも、開発者として現場に立ち続けるふたりに、自らの足でユーザーの声を聞きに行き、ユーザーファーストなプロダクトを作る開発のリアルを聞きました。
「儲からなくてもやる」という意思決定ができた理由
松本:伊藤さんは今、一休のCTOとしてどのようなことをやられているんですか?
伊藤さん:弊社はまだエンジニアが60人くらいの組織なので、採用や戦略など開発組織全体を見つつ、僕自身も実際に手を動かしてプロダクト開発を行っています。
今取り組んでいるのは、いわゆる「サイトコントローラー」と呼ばれる、飲食店向けのBtoBのSaaSプロダクトです。たとえば複数のグルメ媒体で空席予約を管理している場合、ひとつの媒体で席が埋まると、他の媒体の予約も止めなければいけないですよね。
そうした細かな同期作業を手動でやるのは大変なので、グルメ媒体の予約をすべて同期して一括管理できるプロダクトを作りました。
宿泊事業の領域は随分前から一括管理できるシステムがあって、ホテルのフロントのシステムをいじれば、すべての予約サイトに空室状況が登録されるようになっています。
ですが、レストラン業界ではなかなか同様のシステムが定着しなかったんです。大手の事業者が運営する飲食店は別ですが、個人経営に近い規模のレストランだと、システムに対して予算を割くことが難しいこともあります。そうすると、システム利用料だけでは収益化しづらく、事業として成立しづらいことも事情としてあります。
松本:ある意味「儲からないけどやる」という意思決定に思えるのですが、「やる」と決めたモチベーションはなんだったのでしょうか。
伊藤さん:僕たちは、「世の中から電話をかけないと予約ができない仕組みをなくしたい」という思いでプロダクトを作っています。それを実現するためには、インターネットから来た予約枠をお店の人が手動で管理する手間をなくさないといけない。
また、SaaSだけの視点で決めたというよりは、全体を見た上での意思決定です。自社でグルメ媒体を持っていて、飲食店予約に関して媒体側で収益化できる仕組みがあるので、極端な話、サイトコントローラーで大きく収益化できなくてもいいという判断ができます。
裏側の管理システムとしてレストランさんがこれを利用すれば一休にも空席が登録されます。なので、グルメ媒体を持っている我々としては、使っていただけさえすれば良い。間接的にグルメ媒体に利益をもたらすビジネスモデルだからこそうまくいったのだと思います。
初めてのユーザーインタビューで痛感した「何もわかっていない」現実
松本:一休さんでは、「ユーザーファーストによる事業成長」を採用サイトなどでも掲げていますが、お客様にいいものを届けるために、開発チームで取り組んでいることはありますか?
伊藤さん:特別なことはやっていませんが、お客様には頻繁に会いに行っていますね。BtoCだと「こういう使い方をしている人」など、自分たちで想定したお客様と会う機会を作ることは意外と難しいと思います。ですが、BtoBだとお客様と直接的な繋がりがあるので「話を聞きたい」と思った方にインタビューを実施しやすいですよね。実際の使い方や課題感を知るためにも、週に1回は開発者の誰かが会いに行くことを続けています。
正直なところ、私自身は初めはお客様に会いに行くのに少し躊躇があったんです。開発に専念した方がプロダクトは進むかなと思ったりしていて。それで1〜2週間くらい引き延ばしていたら、社長に指摘されてですね(笑)ですが、実際に話を聞かせてもらったら、「なんでもっと早くに会いに行かなかったんだろう」と後悔しました。
松本:どんな気づきがあったんですか?
伊藤さん:「気づきを得る」というレベルじゃなく、「何もわかっていなかった」ことがわかったんです。飲食店の方が考えている、お店をどう回すかというメンタルモデルと、エンジニアである僕が頭の中で描いていたモデルがかけ離れていて。僕たちはグルメ媒体も作っていたので、ある程度その領域には詳しいというバイアスがかかっていたんですね。
自分たちがいいと思って作った機能でも、直に話を聞くと「必要ない」と言われたこともありました。飲食店のオペレーションについて理解が深まっていない自分が、今の状態でプロダクトを作ったら失敗すると思ったんです。
松本:特に新しい機能を考えるときは、お客様の声が重要ですよね。チーム内で開発する機能を決めるときには、どのように優先順位づけをしているのでしょうか?
伊藤さん:5〜6人規模の小さなチームで動いていて、優先順位はそのチームのなかで決められています。チームの区分けはプロダクトごとの場合もありますが、プロダクトが大きくてひとつにまとめられない場合は、機能ごとなど、意思決定がチーム内で完結するようにしています。チームの中で意思決定ができるように境界を定めることはかなり意識していることです。
メンバーが能動的に動ける余白がオーナーシップを生む
松本:チームにそれぞれ意思決定を任せると、考え方が揃わないこともあると思うのですが、複数のチームがひとつの組織の一員として動くために、意識していることはありますか?
伊藤さん:一休の場合、中間レイヤーがあまりいなくて、チームのすぐ上は経営陣になっていることが特徴です。一番大事な優先順位だけ外さないようにすれば、チームごとで細かなやり方や進め方が違ってもあまり気にしません。
松本:お話を聞いていると、意識的に余白のある組織作りをされている印象を持ったんですが、あえてそうしている理由はありますか?
伊藤さん:個々人が能動的に動く余地を残しておきたいからですね。オーナーシップを持ってプロダクトを作ると、何か問題が起こったときにも自分の力で取り返したいって思える。「やり方も含めて自分が決めて、作ったんだ」という意識が、プロダクトやシステムの品質に影響すると考えているので、あえてガチッとルールを決めすぎないようにしています。
ただ、曖昧にしすぎるとハイコンテクストになってしまい、新しく入ってきた人が会社のカルチャーもやり方もわからなくなってしまう。なので、これまでの経験を最大限生かしながらバランスをとっている感じです。
松本:特に、初期の頃は綺麗なルールを作りたくなってしまいますよね。LayerXでも、メンバーが意思決定する余地を作って、実際に動いてもらうなかで、「LayerXらしさ」を言語化していくことを意識的にやっています。
完璧すぎてもダメで、無法地帯でも問題が起きるので、「中庸」を探っていくものが、LayerXの場合は「羅針盤」などの組織文化だと考えていて。毎週、全社の週次定例会で行動指針などについて話しています。
一休さんは、プロダクトを通して体験の一貫性や思想などを感じます。そうした意味で、一休さんの開発チームで追っているKPI指標などはありますか?
伊藤さん:開発チームにはKPIを持たせていないです。たとえば、宿泊事業部の予約回りのプロダクトを作っているチームには、コンバージョンデータや予約数を見てとは言っていますが、その数字を上げるために頑張ってもらっている感じではないですね。
ちょっと特殊なケースで参考にならないかもしれませんが、弊社では社長の榊が全部のデータを自分で分析して共有するんです。そのレポートが毎週末に更新されて、そこに事業のコンディションがかなり詳細に記載されているので、みんなそれを見て何をすべきか考えています。
松本:榊さんはそれをもう何年も続けていらっしゃるんですか?
伊藤さん:はい、全プロダクトを分析しています。理由は、「事業を動かしている本人が分析すると、どうしてもバイアスがかかったデータになってしまうから」と本人は言っています。榊のレポートは一切バイアスがかかっていないので、リアルなデータが並ぶんです。
ただ、レポートに並ぶ数字をどれかひとつ改善すれば評価されるわけではありません。あくまで全体で見たときに、お客様に価値提供ができているか、ひいては利益や売上につながっているかが重要なので、自分のチームのミクロな指標であるコンバージョンだけを伸ばしても意味がないという考えです。
小さな負荷も積み重なれば、チャレンジを阻害するリスクに
松本:使いやすいプロダクト体験というところで関連してなのですが、一休さんにはバクラクビジネスカードを導入いただいています。きっかけはなんだったのでしょうか。
伊藤さん:そもそもの発端は、ChatGPTを会社のみんなで使いたかったことです。有料のものを使おうと思ったら、個人のカードを登録して、毎月経費精算をしないといけなくて、それはあまりに不便だと思ったんです。というのをTwitter(現在はX)に投稿したら、バーチャルカードという存在を教えてもらって。
人数が少ないチームでやっているので、細かい事務作業に個人の時間を使ってしまうと、本質的にやらなければいけない仕事が圧迫されてしまいますよね。限られた開発時間を削らないために、バクラクの導入を決めました。
松本:些細なことに思えるかもしれないですが、経費精算などの作業が新しい技術へのチャレンジを阻害するって本末転倒ですよね。
伊藤さん:本当にそうですね。他にも、エンジニアが好きなマウスやキーボードを買える制度があるんです。以前は、買いたい人が稟議をあげて、それを承認するフローだったんですが、いくつも申請がくると訳がわからなくなる。そしたら、Slack上で購入希望を出したら、僕に通知が飛んできて、承認ボタンを押すだけで完結するシステムを誰かが作ってくれて。
そういう心理的ハードルを下げる仕組みができるだけで、制度が積極的に利用されるようになりました。
松本:間違いないですね。業務を効率化することで、本当に今やるべきことにフォーカスできるように弊社も全力でサポートしていきます。
最後に、一休さんのこれからの展望をお聞かせいただけますか。
伊藤さん:レストラン予約は宿泊予約よりもデジタル化が遅れています。なので、まずはレストランを予約する際の、電話予約をなくすことを実現していきたいと思っています。
一方で宿泊予約はデジタル化が進んでいるがゆえ、解決しなければならない課題も高度になっています。具体的には、ユーザーのハイコンテクストな検索要求をシステムに落とし込めるかという視点でのLLMの活用です。
たとえば、海が見えて、源泉掛け流しのお風呂が部屋についている宿に泊まりたいという希望があったとしますよね。今はまだ、ユーザーが「海が見えるホテル一覧」ページや、システム内のキーワード検索でヒットした結果から探さないといけない。
それを将来的には、「海が見える、源泉掛け流し風呂付の宿」と音声やテキストで入力すると、レコメンドが出るようにしたいと考えています。試しにLLMに口コミデータを入れたら、良さそうな結果が出てくるんですね。
なのでLLMはこれからの一休、特に口コミデータが集まっている宿泊事業にとって重要な要素になってくると思っています。今はAPI経由なのでレスポンスの速度など課題もあるのですが、何年かすると技術革新が起きると信じて、追い続けないといけないなと感じています。
松本:早く使ってみたいですね。LLMを活用する一休さんの未来、いちユーザーとしてとても楽しみです。
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