BtoBプロダクトの固定観念を超えて。「あきらめ」を強要しない体験をつくり出す秘訣
バクラクビジネスカードをはじめ、バクラクシリーズを活用いただいているお客様に、LayerXの経営陣が聞きたいことをインタビューする連載『バクラク顧客探訪』。
第1回目は、「最高のワークエクスペリエンス」の提供を目指す株式会社ナレッジワーク代表取締役CEOの麻野耕司さんに、株式会社LayerX代表取締役CEOの福島良典が話を聞きました。
「顧客体験を重視したBtoBプロダクト開発の秘訣とは」「BtoBプロダクトを開発する企業の代表として意識していることは」などなど。両者のプロダクト開発に対するこだわりや思想について語っていただきました。
BtoCの体験を、BtoBのソフトウェアで提供したい
福島:まず、麻野さんのBtoBプロダクト開発における顧客体験に対するこだわりをお話いただけますか。
麻野さん:こだわっているのは、ワークエクスペリエンス(仕事体験)を高めることです。そのために、BtoCのプロダクトが提供するレベルの体験を、BtoBのソフトウェアで提供したいと思ってやっています。
BtoCでは、利⽤する⼈と購買する⼈が一緒なのでユーザビリティが高いのですが、BtoBのソフトウェアの世界はユーザビリティにおいて取り残されているなと思っていて。
当社が提供しているナレッジワークは営業担当者向けの⾼性能なポータルサイトのようなもので、現在の主な価値はシンプルに、「資料がすぐに見つかる」というものです。
たとえばある営業資料を探したいときに、従来はフォルダを開くとファイルの件名がテキストで並んでいて、クリックして中身が違ったら閉じて…という感じですよね。このインターフェイスは何十年も変わっていません。
福島:僕も、よくそうやって資料を探しています(笑)。
麻野さん:ナレッジワークはそのインターフェイスに革新を起こしています。資料の上にカーソルを合わせるとそれだけで中⾝が⾒えるので、資料の中身を確認できる速さが全然違います。たとえば、YouTubeで動画を⾒るときもカーソルを合わせるだけでちょっと内容が見れますよね。そんなイメージです。
福島:いいですね。
BtoBの世界ではユーザビリティが取り残されているという点について、僕も同じ考えです。たとえば、ワンクリックで買えると謳っているECサイトで購入ボタンを押したら、3日後に請求書が届いて、「料金を支払わないと商品は届きません。振り込み先の口座はここです」と書かれていたら、世の中の大半の⼈は商品の受け取りまで⾄らないと思うんですよね。でも、そんな体験がまだまだ残っているのがBtoBのサービスですよね。
メルカリみたいにスマホで写真をパッと撮ったら出品完了といった体験を、僕たちは、たとえば経費精算で実現できないのかな、と考えています。
「あきらめ」を強要しない体験がすごい体験になる
福島:サービスで最初に個人情報などを⼊⼒させる行為って「わかりやすいあきらめ」だと思うんです。ニュースアプリの事業をやっていたこともあり、情報を入力してもらえば適切なコンテンツを推薦できるので、入力させたくなる気持ちはわかるんです。でもNetflixはそんなことさせないじゃないですか。
麻野さん:すごくわかります。
福島:「年齢くらい⼊⼒してもらえばいいじゃん」と思うかもしれないですが、ユーザーは、そんなに簡単に入力してくれません。だから、ユーザーの行動をもとに予測したりするんですよね。Amazonも、ワンクリックで決済させるために特許を取っていますし。アップルも、目標までのステップ数を重要視しているそうです。
でも、BtoBのサービスの場合は仕事で使うものなので、⼊⼒が多いから離脱するかといったら、そうはならないですよね。「会社で決められているので、この方法で⼊⼒してください」となっている。
BtoBサービスって、ユーザーへのあきらめを強要させやすいんだなと思います。でも、あきらめを強要させないサービスを目指してやりきったときに、本当にすごい体験がつくれるんじゃないか、というのが僕の考えですね。
麻野さん:ものすごく共感します。僕、フォートナイトというゲームが大好きで、どれだけ忙しいときでもやっているんですけど。世界中の子どもから高齢者までみんなが楽しめるんですよね。ゲームは基本的にボタンと⼗字キーで全部できますし、ナレッジワークもそんな体験を届けるのが理想です。
決裁者の視点に寄りすぎない勇気を持つ
福島:「資料を探すのが大変」という課題は、以前から多くの会社にあったと思うんです。
ただ、既存のストレージサービスは、技術力はあっても探しやすさを追求しきっているものはなかった。それはどうしてなのか。そして、ナレッジワークさんはなぜ、その課題を解決できているんですか。
麻野さん:ずっと「ファイル共有ってこういうもの」という固定観念があったと思うんですよね。BtoBはこういうもの、BtoCはこういうものというのも同じくですが、そういう固定観念にとらわれていない点は、ナレッジワークと他のBtoBサービスの大きな違いだと思います。
「Netflixはうちのおかんでも簡単に操作して見れるのに、ファイルを探すのはなんでそうなっていないんだろう。ナレッジワークもそういう風にできないかな」といったことを無邪気に考えることが多いですね。
あと、BtoBサービスは決裁者や管理者の視点に寄りすぎてしまうことがあると思うんです。
福島:よくわかります。
麻野さん:徹底的に利用者体験に振り切る勇気が必要だと思っていて。たとえば、営業の管理者は、「どの商談でどの資料が使われたか」というデータを欲しがるんですよね。商談ごとに、使った資料をCRM/SFAにアップロードして記録を残したいと仰るのですが、僕たちは、管理者のためにアップロードをするということはやるつもりがありません。
管理するという意味では、CRM/SFAはすごくいいツールだと思っています。僕たちが、CRM/SFAのようなビッグプレイヤーがすでにいる営業向けのプロダクトの中で、新たなプロダクトをつくるとしたら、利用者からの視点に徹底的にこだわってポジションを作るしかない。だからこそ、ナレッジワークは、利用者体験に完全に振り切ったプロダクトにしようと考えています
バクラクはプロダクトづくりの勉強にもなります。社内でも「これ、バクラクみたいにできないかな」という話が出るんですよね。
福島:それは本当に嬉しいですね。ありがとうございます。
いかにお客様との接点やサービスを使う時間をとるか
福島:「ユーザーファーストなプロダクト開発」を組織として維持し続けていくために、麻野さんが意識していることや、仕組みとして取り⼊れていることはありますか。
麻野さん:僕はやっぱり、プロダクトカンパニーであることが⼤事かなと思っています。アメリカの本当に突き抜けた起業家たちは、たとえばスティーブ・ジョブズならiPhone、イーロン・マスクならTesla、マーク・ザッカーバーグならFacebookみたいに、絶対にプロダクトが浮かぶんですよね。
僕は、会社を大きくしたいという以上に、人を驚かせるようなプロダクトをつくりたいという想いがすごく強いんです。そうしたプロダクトをつくるために働いているという意識や、自分自身の時間の使い方、リソースの配分について考えることが大事だなと思っています。
この前、福島さんとお話したときに「もっと広報に力を入れて、イメージを変えたほうがいい」とアドバイスをいただきました。プロダクトの会社であり続けることと、それを対外的に示し続けることも必要なんだ、と思いましたね。
福島:社外に向けての発信は、意外と大事なんですよね。社長とかリーダーが何を言っているのか、社内のメンバーは見ています。
お客様の声を聞く接点を持ち続けることも⼤事で、僕もお客様へのヒアリングに出ることもあります。
経営側に行くと、プロダクトのことやお客様のことを知らなくても、数字を⾒ていると来⽉の売り上げが予測できてしまう。でも、そういう組織はプロダクトカンパニーじゃないよね、と思います。
どちらかというとその時間をいかに減らして、顧客と接する時間や、実際に自社のサービスを使う時間をどれだけつくれるか。役職者やリーダーこそ、そこに時間を使うみたいな仕組みをどうつくれるか、かなと。
各チームに「今週の⾒るべき商談動画」などをピックアップしてもらって、経営陣も必ず⾒ています。生の声にいかに触れられるかは、とても⼤事にしていますね。
社会に発信することをまず社内で実装する
福島:僕の実体験として、社員がプロダクトで解決する実際の業務に触れていることが、ユーザー体験のいいサービスを作る会社の特徴だと思っています。
LayerXでは、エンジニアが経理業務の体験研修を受けたり、簿記の資格を持っていたりします。また、ドメインエキスパート(経理ドメインに精通した社員)へのリスペクトも強くあります。
強要はしていませんが、希望者全員にバクラクビジネスカードを配っていて、チームや採用のランチでも積極的に使ってもらっています。経費精算は面倒だけれど、このカードを使うとこんなにラクになるんだという体験をしてもらいたいですね。⾃社のプロダクトに触れる時間を増やすことは大事にしています。
麻野さん:弊社でも、オンボーディングで自社のプロダクトを使っています。⾃分たちで使うと愛着もわきますしね。外向けにはセールス用ですが、社内ではプロダクト開発のマネジメントの共有などもナレッジワークでやっています。
僕も社会に発信していることを、まずは社内で実装することがすごく大切だと思っています。ナレッジワーク⾃⾝が、最⾼のイネーブルメントを実現している会社でありたいし、モデルケースになりたい。
それを実現できているのは「ナレッジワーク」というソフトウェアがあるからだ、と言えたら、社員も誇りを持てると思うんですよね。
社内のワークエクスペリエンスを高める
福島:最後に、従業員の働き⽅や従業員に対してこう働いてほしいと、麻野さんが考えていることを教えてください。
麻野さん:僕たちは、お客様にワークエクスペリエンスを向上させるソフトウェアを提供したいと考えているので、社内のワークエクスペリエンスも当然高めていきたいと考えています。いいワークエクスペリエンスはコストを下げ、エンゲージメントを⾼めることができるんですよね。
うちのコーポレートチームには、社内のワークエクスペリエンスを⾼める、あるいは、現場の⼯数削減やスピード、エンゲージメントの向上に貢献する、という目標があります。バクラクは、そこにうまくはまっているんです。
僕は、バクラクのサービス導入に関する稟議には関わっていませんでした。それが、最初に「バクラク請求書」を導入したらすごく良かったみたいで、数ヶ月後には「法人カードも経費精算も、全部バクラクに変えます」と報告がきたんです。いろんな業務をシームレスに繋げられるところがいいと言っていました。
現場からの評判も良かったです。コーポレートからお願いすることはあまり喜ばれないことも多いですが、最初のプロダクトを導入したときに、現場が「すごい」と反応していたのを見て、コーポレートのマネージャーがすごく嬉しそうでした。
まさに、現場のユーザーが喜んでくれて、管理者が嬉しくて、どんどん広がっていく、いい流れができていましたね。
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明日は、株式会社10XのCFO山田聡さんと、弊社横田淳の対談「急成長スタートアップのコーポレートが大切にする一歩先を見据えた“経営の仕組み化”とは?」をお届けします。