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急成長スタートアップのコーポレートが大切にする一歩先を見据えた“経営の仕組み化”とは?

バクラクビジネスカードをはじめ、バクラクシリーズを活用いただいているお客様に、LayerXの経営陣が聞きたいことをインタビューする連載『バクラク顧客探訪』。

第2回目は、小売チェーン向けECプラットフォームを提供する株式会社10Xの取締役CFO山田聡さんと、株式会社LayerX取締役コーポレート担当 兼 CEO室長の横田淳の対談をお届けします。

三菱商事や米系PEファンドであるCarlyle GroupでM&Aや投資に関わってきた山田さんと、メルカリ上級執行役員 SVP of Corporateとしてグループ全体のコーポレート部門を統括してきた横田。

現在、ともに急成長中のスタートアップで経営に携わる2人は、どのようなことに着目し、次のアクションを考えているのでしょうか。これまでの経験も踏まえ、一歩先を見据えた経営の仕組み化について語り合いました。

10X様では、バクラクビジネスカードをはじめ、バクラク請求書、バクラク申請、バクラク経費精算をご利用いただいています。


部署を横断して事業成長の仕組みを作る10Xのコーポレートオペレーション


横田:
いつもバクラクシリーズを活用いただきありがとうございます。今回は10Xのコーポレート組織づくりや経営に対するお考えをお伺いしていきたいと思います。現在10Xの組織は、どのくらいの規模なのでしょうか。


山田さん:
私は2020年のはじめに12番目の社員として入社し、0から1フェーズのコーポレート組織を作ってきましたが、この3年間で社員数は10倍になり、現在、120名を超えたくらいです。LayerXはどうですか。


横田:
現在、約200名になります。今後の会社の成長にあわせて、コーポレート組織をどのように作りこんでいくべきか、CFOやCHROと議論しているところです。


山田さん:
スタートアップのコーポレート組織は属人的に立ち上がり、成長に伴い組織化するフェーズがやってきますよね。すごく共感します。

10Xのコーポレートは、私が一人目でした。それこそ、経費精算のフォームを作って領収書を回収したり、雇用契約書の作成、給与計算なども担当したりと、外部の専門家の力も借りながら、基本的な業務からやっていましたね。

株式会社10X取締役CFO 山田聡さん

今はコーポレート本部があり、私は、ファイナンス・会計、経営戦略、法務、経理、労務、総務、コーポレートITを管掌しています。また10Xには、コーポレートオペレーションズという組織があるんです。

たとえば、稟議のワークフローを整えたり、フロント部門がパートナー企業と動きやすいようにプロジェクトマネジメント体制のセットアップ支援をしたりと、部署を横断して、事業や組織の成長に向けた仕組みを作っています。

10Xは、最初のクライアントがエンタープライズの小売事業者さまでしたから、情報セキュリティ要件がハイレベルで求められました。なので、コーポレートIT機能やガバナンスも、最初から高いレベルが実現できるように強化しています。

出典:【10Xを大解剖】マトリクス組織&本部をかんたん紹介

先読みして、コーポレート機能を考える


横田:
コーポレートの各機能について教えてください。山田さんは、これまでのご経験を踏まえて、「10Xの今のフェーズならこの機能が必要だ」と先読みして考えたのですか。それとも、クライアントのニーズにあわせて作ってきたのでしょうか。


山田さん:
コーポレートオペレーションズは、事業や組織がスケールする中、実際の社内外におけるオペレーション構築・改善のニーズにあわせて作りました。それ以外は、少し先読みして、逆算的にコーポレート組織を設計してきました。たとえば法務には、早い段階から意図的に弁護士資格を持っているメンバーを採用しています。


横田:
外部の弁護士にお願いするのではなく?


山田さん:
そうです。やはり大手企業と契約するうえで、法務の体制に不備があると、将来想定外のことが起きた際の揉め事のきっかけになりかねません。事業やプロダクトの状況に対して私たちと同じコンテクストの理解度で対応できる弁護士が社内にいると、法務のアウトプットのクオリティがぜんぜん違うんです。逆算して法務は今の段階で絶対に重要になるから、早めに採用しようと動きました。

アカウンティング(会計)系も同じですね。管理会計の基盤を作るため、早めに管理・財務会計運用の経験が豊富なマネージャークラスを採用しています。管理会計の仕組みは経営の意思決定に欠かせない数字じゃないですか。正確性はもちろん、財務会計側で月次決算を締めたら、すぐに整合が取れた管理会計の数字も上がってくる速さも重要です。

ただ、すでにできあがっている仕組みを整えていくことは、すごく大変なんです。私もファンド時代のPMI(※)では、最初に管理会計の整理をしてきましたが、半年ぐらいかけてようやくまともな仕組みができ、見るべき数字がタイムリーに見られるくらい時間がかかるものでした。

※PMI:M&A成立後、2つの企業の経営や組織、業務システムなどを統合するプロセスのこと。

なので、はじめから管理会計の思想を持った人が、あるべき管理会計の姿を逆算して財務会計と連動した仕組みを作る。そのほうが、圧倒的に楽になると考えました。


横田:
おっしゃるとおり、仕組みを作り変えるって大変ですよね。LayerXに関していいますと、コーポレート部門にはまだまだ足りない機能が多いです。ただ、まずは事業成長のほうに時間を割いてきたという経緯があるんですね。

コーポレートやHRの仕組みは、経験豊富なCFOの渡瀬とCHROの石黒が将来を見通した設計にしてくれていますし、これまで問題なくまわってきている。いきなり現状を壊して作り替えるのではなく、今の状態をうまくアップグレードできるといいのかなと考えています。

株式会社LayerX取締役コーポレート担当 兼 CEO室長 横田淳


山田さん:
「これまでのやり方を尊重したい」というお話、とても参考になります。社内の話というよりは社外の話ですが、小売業のDXを進めていく私たちは、ときにパートナー企業(取引先である小売企業)の意思決定の背中を押す場面も出てくるんです。ただ、「こうあるべき」を押しつけてはいけないんですよね。

小売業の慣習や、各社の意思決定のリズムがあるんです。だから、まず相手企業の様子を見て、どんな意思決定をしているのか理解する。そのうえで、私たちからどのような情報開示をしていくと、スムーズに意思決定ができるかを考えたいなと。理想論だけでバシッといっても、伝わらない場面もありますよね。

会議の質や生産性を高める経営会議のリズム


横田:
山田さんが「意思決定のリズム」とおっしゃいましたが、私は今、経営会議のリズムを作ることに取り組んでいます。


山田さん:
経営会議のリズムですか。


横田:
経営会議は、経営陣の時間を割いて開催されるものなので、生産性が高くないといけないと考えています。以前のLayerXの経営会議は、役員がアジェンダを持ち寄り、まずは資料を読むところから始めるときや、説明を聞くだけで時間が過ぎてしまうときもありました。

経営会議は質とスピードが大切ですし、アジェンダが複雑化してくると、経営陣同士で情報の非対称性が生まれてしまい、議論が活性化しません。すべての経営陣がさまざまな議論に参加しやすいように経営会議のレギュレーションをいくつか作りました。


山田さん:
いいですね。具体的に聞きたいです。


横田:
たとえば、アジェンダや資料は会議の前日18時までに共有することになっています。資料には一定のフォーマットがあり、費用対効果やメリット・デメリット、現場のディスカッションの履歴なども情報として加えます。経営会議の前に読んでおけば、管轄が異なる役員も理解ができ、議論に参加しやすくなります。

参加者は、この資料を会議が始まる前に読み込み、コメントや質問を加筆したうえで会議に臨みます。そうすると、活発な議論が起こり、圧倒的に生産性が高い会議になります。

また、「この時期にこの議題を話そう」という予定を記載した年間のカレンダーも用意しました。予算策定や人事評価など、役員の稼働がかかるイベントをあらかじめスケジューリングしておき、年間の経営のリズムを作っています。事前の準備や議論をしやすくなるという効果があると思います。


山田さん:
なるほど。


横田:
あとは、経営会議の準備や進行などの運営をする事務局を置くこと。事務局のメンバーには、将来経営会議にメンバーとして入ってもらいたい人や、幹部に登用したい人をアサインすると良いと思います。その人の育成にも繋がりますし、経営会議に参加することになったときにとてもスムーズです。これらは、実はメルカリで効果のあった施策なんです。

まずは経営会議のリズムを整え、各部門の定例ミーティング、主要な会議、1on1など、会社全体のリズムを整えていきたいと考えています。会社全体の生産性向上、会議の質の向上はとても重要なテーマです。


山田さん:
私たちも、経営会議のクオリティをあげるために、経営戦略部が中心となり経営会議の運営を1年ほど担当しています。でも忙しくなってくると、アジェンダの締め切りを守れなかったり、各自の準備が追いつかなくなったりすることもあるんですよね。そういうときには、横田さんならどうされますか。


横田:
慣れるまでは、声を出し続けることが大事です。LayerXの場合は、私から「必ず会議のレギュレーションは守ってください」と役員全員へ個別に伝えるようにしています。「資料はギリギリでもいいですが、アジェンダのエントリーは、前日18時までに必ずお願いします」のような感じで。


山田さん:
横田さんから言われたら、皆さんやらないわけにはいきませんね。マネジメント層が声を上げ続けることの重要性を感じます。


横田:
LayerXには凡事徹底というカルチャーが浸透しているので、経営陣自ら率先垂範して欲しいと思っています。仕組みやレギュレーションを作るのは意外と簡単でも、きちんとやり切れるか、自発的に仕組みが回っていくかどうかがとても重要で難しいところですね。複雑なルールを作ってやりきれないのであれば、シンプルなルールを作ってやり切った方が良いのかもしれません。

これからのコーポレートが目指すのは、韮型の組織


横田:
これからコーポレートの採用も進めていくのですが、「経理」「人事」という専門性だけではなく、幅広い領域に対して興味が持てる人に入っていただけるといいのかな、と思うんです。コーポレート、人事の仕組みは複雑に絡み合って繋がっています。各業務の専門性も必要ですが、機能や役割の垣根を取っ払うか、低くして、他部署同士を縦横組み合わせながら、リソースの配置や業務の仕組みをなめらかにしていきたいな、と。


山田さん:
10Xのコーポレートも、ハブになれるような人材が重要になるフェーズだと感じています。何らかの専門性を持って、それを他の領域にも広げ、影響を生み出す人は今の組織にフィットするイメージがあります。


横田:
まさに、「韮(ニラ)型人材・韮型組織(※)」の話ですね。人材の韮化は時間と労力がかかりすぎるので、最近は、人を韮化するのでなく組織と仕組みを韮化することが現実的ではないか、と考えているんです。自部署だけでなく、他部署の業務にも興味を持ち、専門性を軸に自分の枠からはみ出しながら影響を広げていけるか。これからのコーポレートにはそういった素養が求められるのではないでしょうか。

※韮型人材:横田が提唱する、複数の専門性を持ち、「韮」の字のように縦横のつながりを構築できる人材のこと。

また、コーポレート部門の中に業務を効率化したりDXを推進したりする専任者やエンジニアがいると、システム化が進み、作業がどんどん減っていくのではないかと考えています。コーポレートは、プロセスが整っていくと、スピードとクオリティが両立していきます。

川の上流にダムを造っていくイメージでしょうか。下流に高い堤防を作り続けるのはしんどいですよ。頑張っても頑張っても、堤防は決壊してしまうことがある。バクラクのようなSaaSを使うなどして、ワークフローの上流を整え、組織や仕組み全体を韮化していくほうが、効率的で強固なコーポレートが作れると思います。

山田さん:10XにもコーポレートITチームがいるんですが、作業をどんどん自動化してくれていますね。すると、単純作業が減ってくるので、その分求められるのは、韮型人材のような、より上流の企画段階から関われる人になってきます。


横田:
では終わりに、今後のコーポレート組織の展望についてお願いします。


山田さん:今、10Xのコーポレートとして重要視しているのは、予算と権限委譲です
。人数が100名を超えてくると、経営陣が細かいところまで判断できなくなるし、そうすべきでもないと思います。事業成長のスピードを上げるには、権限委譲をして、情報の解像度の高い現場主導での意思決定が可能な領域を増やさなければなりません。

かといって、意思決定の精度は高めておきたいし、会社として目指す方向性に関する重要事項は、スピード感を持ってトップダウンで決めていくべきという側面もあります。つまりどこで何をどのように意思決定するかという、組織に、規律を持った意思決定のOSのインストールが必要だと考えています。

その面では、バクラクの各サービスにお世話になっています。稟議の書き方、フォーマット、どのポイントで誰が見るべきなのかのワークフローのブラッシュアップを進めています。稟議プロセスそのものが組織の意思決定の型・OSを育てることに繋がるので、その設計にはこだわっています

バクラクビジネスカードも上限金額の設定等ができるので、現場も「この範囲であれば自分の裁量で使える」と悩まない設計も可能だと思っています。ガバナンスを効かせながら現場に任せられますね。

横田:私も引き続き、バクラクの世界観であるなめらかさを意識し、縦と横の組織をうまく機能させながら、コーポレート部門の強化に注力していきたいと思います。山田さん、本日はありがとうございました。

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山田 聡
株式会社10X 取締役CFO
三菱商事株式会社でロシア・カザフスタン向けの自動車販売事業・現地販売会社のM&A及びPMIを経験。その後、米系PEファンドであるCarlyle Groupに参画し、おやつカンパニーやオリオンビールの投資・PMIを実行。Wharton MBA(2017年)。10X以外にもVoreas北海道を始めとするスポーツチームの経営支援に関わる。

横田 淳
株式会社LayerX 取締役コーポレート担当 兼 CEO室長
慶應義塾大学を卒業後、NTTデータを経て、2001年サイバーエージェント入社。執行役員経営本部長としてグループ全体のコーポレート業務に従事する傍ら、ABEMAなど多数の新規事業の立ち上げ、特命案件業務に従事。2017年メルカリ入社。メルペイなどの新規事業を立ち上げた後、メルカリ上級執行役員 SVP of Corporateとして、グループ全体のコーポレート部門を統括。2023年4月LayerX入社、取締役コーポレート担当 兼 CEO室長として、コーポレート部門全体を統括しつつ、アライアンス、エンタープライズ営業等を推進。

8月7日は、STORES 株式会社取締役CFOの齋藤健太郎さんと、LayerX執行役員の川口かおりの対談「組織に余白を残す。“Just for Fun”を体現する組織づくりの思想とは」をお届けします。

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