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newmo青柳氏が語った「マネジメントの失敗談」と「2020年代に必要なリーダーシップ」とは──LX Leadership Night #1イベントレポート

自らの手で事業をドライブし、世の中に新しい価値を創出する方々に「学び、変わる」きっかけを提供する──そんな思いから、LayerXでは新たに「LX(=Learn&transformation)Leadership Night」というイベントコミュニティを企画しました。

同イベントは“社会を変える”スタートアップのリーダーシップメンバーが集うコミュニティを目指しています。イベントの中身の一部はnoteでレポートを掲載する予定ですが、Q&Aセッションを中心にオフラインの場でしか得られない、リーダーたちの失敗などのオフレコ情報を提供することで、仲間との出会いや学びのある場を作っていく予定です。

2024年8月19日に開催された、第1回のテーマは「スタートアップが社会を変える、シリアルならではの挑戦」について。タクシー・ライドシェアサービスを手がけるnewmo代表取締役の青柳直樹氏とLayerX代表取締役CEOの福島良典が登壇し、起業に懸ける思いやマネジメントの失敗経験、2020年代のリーダーシップ像などを語りました。セッションのモデレーターはLayerXの石黒卓弥が務めました。

2人の起業家を奮い立たせた「リベンジ」と「後悔」という感情

──青柳さんは今回が“初めての起業”と言われていましたが、グリーとメルカリを経て起業。福島さんはGunosyを起業し、LayerXは2回目の起業になります。お二人の今回の挑戦に対する思いを聞かせてください。

福島:今日はカッコいい話よりも“リアルな話”ができればと思っています。シリアルアントレプレナー(連続起業家)の挑戦として、根底には「社会に貢献したい」「より大きな事業をつくりたい」という思いがあります。その前提があった上で、LayerXを立ち上げた背景には個人的に「リベンジしたい」という思いが強いです。

自分は過去にGunosyを立ち上げ、上場も果たしました。周りからは「成功しましたね」と言われるのですが、全然成功したと思っていなくて。なぜかと言うと、同じようなタイミング、同じようなマーケット環境で立ち上がったスタートアップが大きく成長し、社会を変えていく様子を横目に見ていたからです。

その会社がフリマアプリ「メルカリ」などを展開するメルカリと、ショート動画共有アプリ「TikTok」などを展開するByteDance(以下、バイトダンス)の2社です。

それこそ、ByteDanceに関しては個人的に交流があり、話をする中で考えていることも同じだったので、自分たちもイケてるのではないかと勘違いしてしまいました。結果的にByteDanceは未上場スタートアップの中で世界最大規模になっている。メルカリもフリマアプリを通じて世の中の習慣を大きく変えました。

その様子を見て、単純に「悔しい」と思ったんです。同じようなタイミング、同じようなマーケット環境で会社を立ち上げたにもかかわらず、なぜここまで結果に差が出るのか。次の挑戦では「リベンジしたい」という思いが強くありました。

そのため、あらためて過去のメガベンチャーが創業期に何をしていたか、どういう成長を描いていったかを改めて研究し、その学びをもとに立ち上げたのがLayerXです。

青柳:自分がnewmoを立ち上げた背景には2つの思いがあります。まず1つ目が、7年前にグリーを退職してメルカリに参画する前に、一度ライドシェア事業をやりかけたことがあるんです。実際に法人を立ち上げました。ただ、当時は今のようなライドシェアに関する規制改革の議論もなく、全く相手にしてもらえませんでした。

世の中が大きく変わる感覚を持てず、その挑戦は一旦置くことにし、メルカリ・メルペイに参画することを決めました。メルカリでさまざまな挑戦をする中で、ライドシェアの規制改革に関する議論が行われ始めた。このタイミングで動かなかったら、いつ動くんだと。いまライドシェア事業を立ち上げなかったら、絶対に「後悔する」と思ったんです。人生に悔いを残すような生き方は嫌だなと思い、2024年1月にnewmoを創業しました。

また2つ目は「社会に良いことをしたい」という思いです。自分は2011〜2016年にかけてグリーの海外事業の責任者をやっていたときにUberを使ったことがあって。異国の地でも好きなところに行ける素敵なサービスだなと感じ、いつ日本にやってくるんだろうと思っていたのですが、10年経ってもライドシェアがやってくる気配がない。その背景には日本のタクシー業界独自の構造が大きく関係しています。昔ながらの慣習で状況が変化しないことに対する違和感があったので、その構造を変えていこう、と。

過去に2回上場を経験しており、会社を大きくしたいという思いよりかは、子どもも生まれて「社会に良いことをしたい」という思いの方が強くなっていたんです。ここまで培ってきたものを生かして、どう社会に貢献していくか。これまで積み上げてきた信用やネットワークを掛け合わせ、それらをオールインしたら社会が動くかもしれない。そこにチャレンジしてみたい気持ちはありました。人生の集大成だと思って挑戦しています。

「恥ずかしさしかない」、青柳氏が振り返ったマネジメントの失敗

──スタートアップが「社会的な影響力」を高めていくためには、組織規模の拡大は避けて通れません。組織規模が拡大していくとマネジメントも重要になってくるわけですが、お二人の中で過去のマネジメントの失敗話があれば、ぜひ聞かせてください。

青柳:マネジメントの失敗はほとんどグリー時代に経験しています。メルカリは経験のある人たちが集まっていたので、自分が参画したときには失敗を避ける仕組みがすでに出来上がっていました。

それこそ、グリーは自分を含めて経営陣がマネージャー業務をやるのが初めての人ばかりで。当時はとにかくハードワークして、背中を見せて引っ張ることだけ考えていました。それで一定規模まで成長することはできました。ただ、その成功体験をしてしまったが故に株式上場して数年が経過しても権限移譲が進まず、あらゆることを経営会議で決めていたんです。その結果、少しずつ組織内に歪みが生まれていきました。

また、個人としてもマネジメント経験がなかったのでコミュニケーションが稚拙だったと思いますし、リーダーシップスタイルも激しい部分があったと思います。そこはいろんな人からフィードバックを受け、自分を客観視しながら少しずつ変えてきました。

当時は徹底的な推進力や交渉力があったと思いますが、そこまで刺刺しいコミュニケーションをしなくても成果は出せるんですよね。むしろ、そうではない方が周りの仲間にも助けてもらえるので、より大きなことに取り組めることにのちのち気づきました。

振り返ってみると、本当に恥ずかしさしかないですね。本当に20代の頃からやり直したいです(笑)。

福島:GunosyもLayerXと同様にカルチャーを大事にしようと思っていたのですが、振り返ってみると「カルチャーの意味」を理解できていなかったなと思います。

Gunosy時代の反省は「数字で経営しすぎた」ことです。そのアルゴリズムを変えたら、クリック率が何%上がって、どれくらいの収益が返ってくるのか。あらゆる物事が数字で説明できるようになっていたんです。振り返ってみて、これはやりすぎたなと。競合の会社は異なるやり方をしていたのですが、同じように成長していたんです。果たしてこれだけ細かく数値を見る意味があったのか、と。

そうした経験を踏まえて、カルチャーの意味が理解できるようになりました。自分は「カルチャーとは何か?」と聞かれたら、「数字以外であなたがその会社で働く理由」と答えるようにしています。やっぱり右肩上がりで売上や利益、ユーザー数が伸びていたら楽しいですし、それだけ働けてしまうんですよね。

ただ、どの会社にもある日、成長がストップしたり、停滞したりするフェーズがやってきます。そのとき、数字だけ見ていたら会社は瓦解してしまいます。

それを学び、Gunosyでも上場後に会社として何を目指すのか、どんな価値を残すプロダクトにしたいのか、どういう人と一緒に働きたいかなどを改めて整理した結果、再び成長の軌道に乗せることができたんです。会社は人が集まって成り立つもので、決して機械ではありません。

数字だけ見て頑張り続けられる人はそう多くないからこそ、一緒に働く仲間や目の前の顧客のために頑張ると思える会社の方が粘れますし、強く、最終的に成長していくので、より大きなインパクトを残せます。そのためLayerXはカルチャーを大事にしています。

青柳:カルチャーの面で言うと、メルカリでは、小泉さん(メルカリ取締役 Presidentの小泉文明さん)がミクシィ時代に苦しい体験をしていたから、初期からカルチャーに投資していく意思決定ができた。初期からカルチャーに投資していく重要性を目の当たりにして、すごく良いなと思ったので、newmoでも実践するようにしています。

優秀な人材の採用力は「行動量」に比例する

──お二人はこれまでの様々な経験の中で、いろんな人のマネジメントを経験してきたかと思います。2010年代から2020年代に時代が移り変わっていく中で、リーダーシップのスタイルは何か変化している部分はあると思いますか?

青柳:メルカリが2010年代のスタートアップだとすると、当時すごいなと感じたのは多様な経営スタイルを持つ起業家人材を登用し、良い意味で”放し飼い”にしていたことです。「これをやってほしい」と細かくオーダーするというよりかは、その方向に進むようにナッジ(行動をそっと後押しする)する。そうすることで、起業家人材のパフォーマンスを最大化していました。それが実現できたのは、2000年代にたくさんの失敗経験をしてきたマネジメント人材がメルカリにはたくさん集まって、一定のノウハウがあったからだと思います。

自分がグリーに入社した2006年ごろと比べると、2020年代はスタートアップの数も増えていますし、人材の層も厚くなっていると感じます。今やメルカリだけでなく、いろんなスタートアップに優秀な人が集まるようになっています。

それを踏まえると、2020年代のリーダーシップ像は多様なリーダーの人たちが活用しやすい経営の仕組みを渡すことで、その人たちの可能性を最大化することだと思っています。とはいえ、それで社内が秩序のない状態になっても仕方がないので、そこにはカルチャーや会社の戦略などを通していくことが重要になっていくのかな、と思います。

20年前はスタートアップ黎明期だったので、山っ気のある人たちが集まっていて。そこからエコシステムが出来上がっていっているので、進化しているなと感じますね。

福島:言いたいことは青柳さんにほとんど言われてしまいましたね(笑)。ちょっと補足的な話ができればと思いますが、昔よりもチームをつくる重要性が高まっていると感じます。

多くの人は「起業家」「経営者」と聞くと、ワンマンでバシバシ物事を決めていくようなリーダーシップをイメージするかもしれませんが、そのタイプは2020年代は難しくなってきていると感じます。自分がGunosyを立ち上げた2012年と比べても、優秀な人たちがたくさん流れ込んできている。そうした中、1人で戦うのではなく、優秀な人たちを仲間にして大きな組織にしていくことが、今の時代に必要なリーダーシップだと思います。

スタートアップ産業が成熟化してきて、それに応じた成熟したリーダーシップが求められます。一方、スタートアップの本質として狂った意思決定も必要。リーダーが適度な狂いとエスタブリッシュに溶け込めるような対話力の両方を持たないといけないので、とても大変な時代だなと感じますね。1人のリーダーでこれを持つのは難しいので、チームとしてこのケイパビリティを持つという考え方が重要だと思います。

──スタートアップが加速度的に成長していくためには、優秀な人材の採用が欠かせません。特に起業家人材、CxO人材を採用するために意識していることはありますか?

福島:LayerXは起業家人材やCxO人材の採用にも力を注いでいます。その人たちは転職以外の選択肢として「起業」があるので、その会社に入る意味付けや口説く力、チームをつくる力が求められるようになっていると感じます。

そうした中で、起業家人材やCxO人材を採用していくには、細かいテクニックもありますが、何より大事なのは「行動量」です。起業家人材やCxO人材を採用できている人は、とにかく連絡をして、人と会って話をしています。トーク力を磨いたり、綺麗な会社紹介資料を作ったりするよりかは、会う機会をつくって「あなたが必要です。一緒に働きたいです」と言い続けることが採用においては効果的です。採用は行動量に比例すると思っています。

青柳:本当に行動し続けるしかないですよね。自分は創業期がボーナスタイムだと思っていたので、起業を決めた2023年9月から起業する12月末までは共同創業メンバーを探すことを目的に、100人くらいに声をかけ続けました。

ライドシェアの実現にM&Aは避けて通れない

──スタートアップの成長において、M&Aもひとつの選択肢になっていくと思います。newmoは大阪の老舗タクシー会社を買収していますし、SaaS業界ではメガスタートアップがスタートアップをM&Aする動きも増えてきています。「成長×M&A」というテーマにおける、お二人の考えを最後に聞かせてください。

青柳:M&Aについては悩みも多いです。ミッションを定めたばかりの1年目の会社が、歴史ある1000人規模のタクシー会社をM&AしPMIしている。カルチャーの近いスタートアップであれば、「こうすればいいよね」と言うだけで進められる部分もありますが、業界が異なるとそれは通じません。実際に「ライドシェアをやるのは抵抗があります」と言われたこともあります。ただ、個人的には移動の足不足解消を目的にライドシェアを実現するには、今の日本のレギュレーションや各地域の状況からするとM&Aは避けて通れない。今後も数年以内に10件くらいはM&Aをやる想定でいます。

たとえば将来、M&Aによって組織規模が1万人規模になった場合の会社のカルチャーをどう作っていくか。そこは全くの未経験で何も分からないですが、放置することはできない。やっぱり、タクシー事業をより良くして、企業価値を底上げしている会社がライドシェア事業もやっている形でしか将来的には評価されないと思っているので、どうすべきかを日々悩んでいます。

福島:Gunosy時代にM&Aはやっていて、いろんな手法を実行しました。その中でひとつの大きく成功したのが、Webゲームメディア「ゲームエイト」の買収です。ゲームエイトはいま、Gunosyの売上の約30%を担う存在になっています。その経験を踏まえて、将来のグロースを予測するM&Aは不可能だと思いました。ゲームエイトは最初のM&Aだったのですが、社長が圧倒的に優秀であり、自分たちの予想を超えるほどの成長をしたんです。

その成功体験をもとにM&Aを何度かやったのですが、結果的には全然上手くいかなくて。将来のグロースをM&Aで買うというのはあまり賢くないやり方だなと思いました。

M&Aをする場合はマルチプル(企業価値)の差を生かす、ロールアップする、共通コストを削るなど、会社側が持っている何かしらのアセットを優位に活かせるものをやるしかない。あまり上手くいくものではないですが、ソフトウェアの品質保証サービスを手がけるSHIFTさんやアミューズメント施設の開発・運営を手がけるGENDAさんのように徹底したプリンシパルを持ってM&Aを進めていけば上手くいくケースもあります。

SaaS業界に関しては今後M&Aや統合が加速すると思いますが、LayerXはまだそのフェーズではありません。ある程度成長が見えてきた会社同士が統合したり、メガスタートアップがスタートアップを買収するというケースは今後増えていくのではないかと思っています。

青柳:先ほどお話しにでたGENDAさんやSHIFTさんのM&Aから学び、そのエッセンスをnewmoに取り入れています。実際に2社の経営陣から会議体の構成なども学ばせてもらい、それを愚直に実行しています。1ヶ月半経って、それなりの手応えも感じているところです。

タクシー会社のM&Aならば、やり続けていける気がします。今後重要なのは従来のタクシー会社のノウハウをnewmoにインテグレートしていけるかどうか。それが挑戦であり、実現したら新しい形のタクシー会社ができると思います。

10月頃を目処に第二回実施に向けて準備を進めておりますのでご興味をお持ち頂ける方は以下connpassページのメンバーに登録頂き次回開催のアナウンスをお待ちください!
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